人間に母グマを殺されたツキノワグマの太郎と花子が生石高原で暮らしている。
飼っているのは養卵業を営む山田順二さん。毎週日曜には日本熊森協会会員らでつくる「太郎と花子のファンクラブ」メンバーがエサやりや獣舎の清掃を手伝う。
同協会県支部長の北野久美子さんは「人間本意でなく、クマをはじめとする動物、植物との共存が願いです」。クマが暮らせる森づくりの大切さを訴える。 

命はつながっている

 暑さよけのため、よしずがはられた獣舎。北野久美子さんが近づくと、甘えるように「背中をかいて」と鉄格子に体をこすりつけるのが花子。太郎も「はやくエサをちょうだい」とアピールする。

 太郎は和歌山県生まれ。1990年4月、切り株の穴で寝ていたところ、猟友会に母を射殺された。一緒にいた太郎は奇跡的に助かり、鳥獣保護員宅や和歌山城内の動物園を経て、92年に山田順二さん宅へ来た。長野生まれの花子も母を人間に殺された。神奈川の個人が世話をしていたが、事情で飼えなくなり、薬殺される寸前に日本熊森協会から依頼を受けた山田さんが2005年に引き取った。

 「花子が来た時、初めて会う女の子に太郎は大喜びでしたね」と懐かしむ山田さん。太郎と花子のファンクラブはその時に発足した。奇数週は同協会県支部、2週目は大阪支部、3週目は兵庫にある本部から世話に行く。

 エサは野菜や果物が主。北野さんは「太郎はニンジンが好き。花子はキュウリ、あとおにぎりが大好物で別腹のようです」。2頭が室内で食事中に屋外の遊び場を清掃。フンを見て健康状態をチェックする。冬ごもり用のわらは農薬の少ないものを与える。

 愛くるしい2頭に会いに来る人は徐々に増えている。エサ代にと寄付してくれる人、山で拾ってきた栗を差し入れしてくれる人もいる。来場者にはクマと森の現状をまとめた冊子を配布する。

 北野さんが訴えるのは森の整備だ。「クマをはじめ、いろんな動植物が暮らせる森は水源の森でもある。人間がスギとヒノキを植え、保水力が落ちた森を、昔の状態に戻せれば」。クマが歩くことで間伐され、森の中に風と日の光が入り、強い木を育てる。「森は植物だけでつくられるのではない。命はつながっている。

そのつながりの中に人間もいる。つながりを断てばしっぺ返しは人間に来る」。2頭の世話をしながら、警鐘を鳴らし続ける。
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